東京高等裁判所 平成11年(行ケ)156号 判決 2000年1月18日
原告
ザユナイテッドステーツプレイングカードカンパニー
代表者
【A】
訴訟代理人弁理士
【B】
【C】
被告
特許庁長官【D】
指定代理人
【E】
【F】
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
「特許庁が平成5年審判第4238号事件について平成10年12月24日にした審決を取り消す。」との判決。
第2事案の概要
1 特許庁における手続の経緯
原告は、平成2年6月29日、別紙の構成から成る商標(本願商標)につき、指定商品を旧第24類「おもちゃ、人形、娯楽用具、運動具、釣り具、楽器、演奏補助品、蓄音機(電気蓄音機を除く)、レコード、これらの部品及び付属品」として商標登録出願したが(平成2年商標登録願第73461号)、平成4年11月11日拒絶査定があったので、平成5年3月8日審判を請求し、平成5年審判第4238号事件として審理されたが、平成10年12月24日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は平成11年2月1日原告に送達された。
2 審決の理由の要点
(1) 原査定は、
「本願商標は、黒地に白い格子模様を描いたものであり、単に地模様と認識されるにすぎないから、これをその指定商品に使用するときは何人の業務に係る商品であるかを認識することができないものと認める。
したがって、本願商標は、商標法3条1項6号に該当する。」
旨の認定をして、本件出願を拒絶した。
(2) よって判断するに、本願商標は別紙に示すとおり、黒地に白い斜めの格子模様を使用し、多数の同じ形の菱型模様を描いたごとき図形より成るものである。しかしながら、本願商標は、全体として自他商品の識別機能を果たすべく重要な部分を特定し得ないものである。
そうとすれば、本願商標をその指定商品について使用した場合、これに接する取引者・需要者は、本願商標が単に地模様を表したにすぎないものと認識するにとどまり、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものと判断するのが相当である。
したがって、本願商標は、取引者・需要者が何人の業務に係る商品であるかを認識することができないものであるから、本願商標が、商標法3条1項6号に該当するとして本件出願を拒絶した原査定は、妥当であって取り消すことはできない。
なお、原告(審判請求人)は、本願商標と同じ商標が世界各国で登録されているとともに、長年にわたって商品「トランプ」に使用されてきた結果、該商標は原告の業務に係る商標として、需要者間に周知、著名であり、顕著性も有している旨述べ、証拠方法として審判甲第1ないし第13号証を提出している。しかしながら、我が国と他の諸国とは商標登録に関する法制が異なるばかりでなく、提出されている限りの証拠だけでは、該商標が我が国の需要者間に、原告の業務に係る商品を表す商標として周知・著名であるとは認め難い。
第3原告主張の審決取消事由
1 本願商標は、仔細に観察すると、着色のひし形模様が多数斜めたすき状に配列されているが、ひし形を囲む白い斜めの格子模様は単なる白い直線ではなく、3個の小さい楕円と、それより少し大きい角形を順次直線上に配列してあり、角形で斜めの格子模様が互いに交叉していることがわかる。このような精緻なデザインは、本願商標の図形に深みを与え、デザインの質感を高めている。
2 原告は、1867年、オハイオ州シンシナチ市に印刷会社として発足し、1894年、ニューヨーク・コンソリデイテッド・カード・カンパニーを吸収合併し、現在世界最大の遊戯用カードの生産会社である。本願商標の図形は、原告製品の特定のトランプの裏面に表示されている。原告製品のカードのうちで最も代表的な商標「Bee」が付されているカード(以下「Beeカード」という。)は、1892年の発売以来、今日まで100年以上継続して使用されてきた。本願商標は、Bee商標と共に使用されてきたものであり、Beeカードは、世界のクラブやカジノ等で使われる標準カードとなっている。
3 トランプのカタログにはしばしばその裏面の図柄が併記され、小売店では裏面の図柄を展示することなどが行われている。
したがって、本願商標の図形によって、トランプ等の遊戯具の取引者、需要者は同一の出所を持つトランプであると認識するものであり、「本願商標は、取引者・需要者が何人の業務に係る商品であるかを認識することができない」とした審決の認定は誤りである。
第4審決取消事由に対する被告の反論
本願商標における同一の細かい模様の繰り返しから成る線は、細かい模様部分が捨象され、一般需要者は一本の直線として見るものであり、本願商標は、審決認定のとおり、全体として単に地模様を表したにすぎないから、白地商品の識別標識としての機能を果たしていると認めることはできない。
また、「Bee」のような文字が付されていない地模様的な構成からのみ成る本願商標が使用された結果、需要者間で原告の業務に係る商品を表すものと認識されることを立証すべき証拠はない。
第5当裁判所の判断
1 本願商標は、黒地に白い格子模様を描き、多数のひし形を交差して連続的に配置したもので、その外周はトランプ札の形状となっていることも合わせてみる
と、規則的な地模様から成っていることが明らかである。地模様であっても、特徴的な形態が見いだされれば自他商品の識別機能を有する場合もあり得るが、上記のような態様の本願商標においては、地模様の形態を超えて、自他商品識別機能を果たすことができるような特徴的な部分を見いだすことはできないといわなければならない。なお、本願商標を更に仔細に観察すると、ひし形を囲む白い斜めの格子模様は3個の小さい楕円と、それより少し大きい角形を順次直線上に配列してあることが認められるが、これらの配列模様も、本願商標の全体の印象からみれば、地模様を詳細に観察しなければ分からない程度のものであり、これをもってしても、本願商標の特徴的な部分と認めることはできない。
以上説示した本願商標の態様によれば、「本願商標をその指定商品について使用した場合、これに接する取引者・需要者は、本願商標が単に地模様を表したにすぎないものと認識するにとどまり、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ない」とした審決の判断に誤りがあるということはできない。
2 甲第4号証、第7号証の1、2及び弁論の全趣旨によれば、原告は、1867年にオハイオ州シンシナチ市に印刷会社として発足し、1894年にニューヨーク・コンソリデイテッド・カード・カンパニーを吸収合併し、トランプなど遊戯用カードの生産において世界最大の会社となったところ、原告の製造、販売するトランプのうちには、本願商標の地模様がトランプの箱及びカード裏面に表示されているものがあることが認められる。しかしながら他方、甲第7号証の1、2、第8、第10号証、乙第1ないし第3号証によれば、カードの裏面に本願商標の地模様が付されているトランプの箱には、本願商標の図形だけではなく、「Bee」の文字商標も付されていることが認められ、また、甲第8、第9号証によって認められるように、原告が製造、販売する「BICYCLE」の文字商標を付したトランプのカード裏面に表示されているような特徴的な絵模様であればともかく、本願商標の地模様の付されたトランプが、その地模様自体から我が国の需要者によって原告の製造、販売に係るものと広く認識されていることを認めるに足りる証拠はない。
したがって、上記認定の原告のトランプ生産の歴史並びにその生産に係るトランプの箱及びカードの裏面の態様を斟酌してみても、我が国において本願商標に係る地模様だけから自他商品識別機能が果たされてきたものと認めることはできない。
3 他に上記1の判断を覆すべき事実関係を認めるべき証拠はなく、原告主張の審決取消事由は理由がない。
第6結論
以上のとおりであり、原告の請求は棄却されるべきである。
(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)
<以下省略>